2013-01-01から1年間の記事一覧

スピッツ『小さな生き物』によせて

《正義は信じないよずっと 鳴らす 遠吠えのシャッフル》 (「遠吠えシャッフル」)この数年のスピッツを取り巻く状況は順風満帆なものばかりではなかった。2012年のスペシャル・アルバム『おるたな』(http://cookiescene.jp/2012/01/universal-1.php)はあ…

【REVIEW】COLLEEN『The Weighing Of The Heart』

トム・ヨークやビョークが称賛したアイスランドのオーラヴル・アルナルズもそうだったが、エレクトロニカ、IDM以降に古典的な音楽を混ぜ込んだ、いわゆる、ポスト・クラシカルとは現代音楽の幸福な実験過程であり、その過程の「生成」途上において巻き込まれ…

【REVIEW】VAN DYKE PARKS『Songs Cycled』

そして、「孤独」に戻る。フランツ・カフカの未完たる『アメリカ』は、主人公たるカール・ロスマンも自身を実質上、彼を監督する人間に振り回され、入れ子的な構造に巡り、放たれるのは自我という不安定さ、であり、未然の決意である。「アメリカ」は非/完…

【REVIEW】sonicbrat『Stranger to my room』

昨今のニューエイジ、ポスト・クラシカルと呼ばれるカテゴリーでもないが、そういったジャンルはよりエレガントになってゆき、もはや、アート的な要素をどんなジャンルよりも交叉させており、その貪欲さも面白い。現代音楽やミニマル・ミュージックといえば…

『風立ちぬ』―ロマンの鈍い意味

宮崎駿という作家としての業と、その商業的・芸術的評価の乖離はよく考える。例えば、ナウシカの原作の漫画を読んだときのマッドに振り切れた救いのなさ、それは手塚治虫が「ヒューマニズムの人」とある側面で称されようが、生命の極北とそもそも、虚無をあ…

Yosi Horikawa『Vapor』―ゼロではない生々しさ

寄稿させて戴いたのを、ここに転載しておきます。***冬の朝が晴れていれば起きて木の枝の枯れ葉が朝日という水のように流れるものに洗われているのを見ているうちに時間がたって行く。どの位の時間がたつかというのではなくてただ確実にたって行くので長…

DARRYL WEZY『MAZE of FEARS』 ―ポスト(その後)ゆえの主流

ジャカルタで先ごろ、ブラーをメインにしたイヴェントを観たとき、とてもニートで綺麗な服できめた男女を観たが、経済的与件のみだけでなく、インドネシアで急激に育ちつつあるニューノーマル層、そして、そのチルドレンたちの「クール」への視線は鋭く、鮮…

KANYE WEST『YEEZUS』

WASPというアクロニムをこの10年代にあえて表に出すことは、何らかの反語要請を含む。肌の色から、ポリティカル・コレクトネス(PC)的に保守的であることと言おうか、貧富、地域、経済格差を越えたZIPコードで守られたコミュニティ形成に関しての導路を敷く…

混線を抜けた道まで

楽になる、と、 楽にする。時系詞を辿ったアナロジーではなく、例えば、学生時分、夏休みの宿題があったとして、7月に大半を終わらせると、8月は「楽になる」。ただ、「楽にする」ためには今瞬間の辛苦や努力はすぐには報われない。何故ならば、自身を楽にさ…

今すぐ、ではない生き方でも

新政権になり、まるでトップは外交と会食とわかりやすいフレーズ・ステイトメントを是とするように、この半年を駆け抜けた。その一方で、株価の乱高下、ちょっとした贅沢、財布の紐が少し緩み、百貨店などで奢侈品が売れてきた、景気のディプレッションから…

くるり「ロックンロール・ハネムーン」

《窓辺にうつった ひろがる田園のような 光に満ちあふれた 未来が手招きしてるから》 (「ロックンロール・ハネムーン」)くるり流の清冽にしてやはり、変化球を込めたシティーポップスというのだろうか、それにしてはファンファンのトランペットの響きが招…

2013年上半期私的5Songs

2013年上半期ベストの時期ということで、豊作だったのは紛うことないですが、私にとってはよりコンセプチュアルにかつ、洗練化したものに意識が向かった気がします。先行配信やフリーダウンロードで「いい曲」がフックされましても、アルバム総体は微妙だっ…

帰り道の途程

“ラッキー7”も“末広がりの8”や数字や精神論には基本、無縁なのだが、どうも7年周期で自身に危機はあり、厄年などもそういった年齢で性別でしっかりとした裏付けがあるとかの話を医者の方に聞くと、それぞれの「周期」はあるのかもしれず、また、生体リズムが…

日常に疲れたときの五枚〜ポピュラーミュージック

経済機関誌用に寄稿したものの転載・加筆にて。***今年は、まだ五ヶ月ほどしか過ぎていませんが、この読者の方々には転機や変わり目を迎えた方も多いと思います。また、同じ仕事をしていましても、春時期は周囲が変化しやすく、つい思わぬ疲れも出ている…

『アルマジロ』

戦争に相義するのは平和なのか、そうではないような気がする。平和は「状態」であり、戦争は「状況」としたら、現代の戦争は何かしらのエビデンスが残るはずで、そのエビデンスは戦場から届く写真や映像、史実そのものであるとしたら、今、平和の状態維持を…

スピッツ「さらさら/僕はきっと旅に出る」―見られていない間の自由

シングルとしては約2年8か月振りという間隔よりも、2012年に『おるたな』があったのもあり、近年、シングルの意味が変わり、よりライヴ志向になっているムード下で、ふと届いた、という感触を得た。2012年のファンクラブ・ツアーでも、新曲を幾つか披露し、…

IN-SIDE OUT,OUT OF BLUE

病院に病気で入ると、病人になる。何を当たり前のことを、と思うだろうが、何らかの組織に組織人として入ると、その組織の中の人になる。中、つまり、「内側」というのは、結局、学閥や派閥、部署、人間関係、どのフロアーの誰彼が何とか、入ってきた新人の…

Thinking about seeing BLUR at Jarkarta

インドネシアは、総体人口は約2億4,000万人を越えた、と公的にいわれている。さらに、ジャカルタなどの都市部における血気盛んな層はネット・リテラシーが高まり、今回のBLURでも兎に角、海外の映像をディグしたり、音源のダウン・ロードをしたり、ネットか…

TAKE OFF or LANDING?

昨年末に日本では政権が変わり、またこれまでの市場役割に対して名目的なデフレ脱却の名の下に、大胆な金融緩和政策に舵が取られ、総体的に「円安」が進んでいます。円安というのは、外貨派生商品が手に入れやすくなるとともに、輸出に主化した産業は活性化…

Apart of CODE

「格差」という言葉は得てして不明確だが、使い勝手がよく、メディアのみならず、貧富のみならず、情報、知識、教育の接尾語としても用いられることがあるが、チャールズ・マレーの『Coming Apart:The State Of White America,1960-2010』を読み返していて…

YUMECO RECORDSについて

今さらのことながら、少し。YUMECO RECORDSに関わらせて戴くことになったのは、蓋然的な流れでもありまして、音楽ジャーナリストとして、多方面で御活躍されています上野三樹さん(@uenomiki)の文章や活動には常々、その生命力を感じていたことがあり、その…

アウラは再帰する

周囲では「もうCD買わなくなって久しい。」という声も多いが、「配信で落としても、やっぱり買ってしまう。アナログも楽しい。」という声もあって、後者のそれは奢侈品としてのパッケージ物へのフェティシズム以外に、そのモノをどこかで手間を掛けて買った…

ターゲットはどこにあるのか

今回の量的・質的金融緩和について既に何かとコンフューズしているようですので、少しだけ接線を。 ベースはインフレ・ターゲット論、つまり、消費者物価の前年比の上昇率を2%に置くという「安定」目標にしましたもので、内実はマネタリーベースの操作、長期…

【REVIEW】SUEDE『Bloodsports』

スウェードが実に約11年半振りとなるオリジナル・アルバム『ブラッドスポーツ』を上梓した。と聞いても、フロントマンたるブレット・アンダーソンはソロで活発に動き、日本でライヴする際にはスウェードの曲を演奏することに躊躇は惜しまなかった。***ス…

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「移動」が便利な世の中になり、手段も沢山選べるようになりました。今でありましたら、格安航空券を利用すれば、或る程度の時間と健康が備わっていましたら、アジア方面のみならず、ヨーロッパ、アメリカにも比較的、容易に行けるようになり、ただ、空港で…

慣性を逸れるために

過去に例がないほど、先日の京都は混んでいた。駅、バス、地下鉄、食事処、どこにも人だかりができていて、色んな国の方が居て、道を聞いたり、ガイドブックや地図を見たり。僕もあれこれと異国の方に話しかけられたものの、なぜかドイツやイギリスの方が多…

経済成長という春のそばで

マレーシアの今度の選挙の軸は、経済成長への視角でしょう。「ETP」と呼ばれます経済改革プロジェクトがあるのですが、そこにおきまして、インフラや石油などに膨大な額が投下されまして、以前に行ったことがありますが、イスカンダルという凄まじい工業団地…

『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』―装置性を翻す一葉

明らかに、この三作辺りでの『ドラえもん』大長編は過去の焼き直しや、いわゆる、新生ドラえもんとしてやや迷走、停滞期にあったところから新機軸、新時代に向けての舵切りを静かに大胆に取っていると思う。声優の変化以外にも、アニメ的によりデフォルメさ…

キリンジ『Ten』によせて

ずっと彼らの来し方を追ってきた人ならば、シンプルに、なおかつ成熟を包み込んできた前作『Super View』の時点で、予想は出来たかもしれないが、同時製作で進められたこの『Ten』(http://cookiescene.jp/2012/10/super-view.php)では堀込泰行、堀込高樹二…

【REVIEW】Manuel Bienvenu『Amanuma』

この時代におけるリアリティとは、どんどんレイヤーが複層的になっているとさえ思う。電車で隣り合わせても、ヘッドフォンやスマートフォン越しに遠い誰かとのコミュニケーションをしているとしたら、その距離的なリアルはヴァーチャル且つ分岐してゆく浮遊…