TAKE OFF or LANDING?

昨年末に日本では政権が変わり、またこれまでの市場役割に対して名目的なデフレ脱却の名の下に、大胆な金融緩和政策に舵が取られ、総体的に「円安」が進んでいます。

円安というのは、外貨派生商品が手に入れやすくなるとともに、輸出に主化した産業は活性化します。となりますと、日本円価値への相対低下に伴い、海外からの流入する人的資源や物的資源もおのずと増えます。先ごろのGWでは、これまでの中国や韓国といった近隣アジア圏の観光客だけではなく、中間層のヴォリュームが増えてきましたマレーシア、タイ、インドネシアなどの東南アジア諸国の客足も伸びたと言います。何にしても、タイは洪水で脚光を浴びる前から物流集中工場圏域として欠かせないところでしたし、中国シフトに暮れました00年代の別次元で、経済成長を確実に遂げていました東アジア経済とは、“来たるべき第三の”、みたいな見方をされていました。

1997年のアジア通貨危機以降と言いましょうか、政情不安や風土、貨幣のサステナヴィリティそのものまで跨ぎ、「安定」はしないものの、着実に存在感を強めてきました。元来、東アジア諸国の多くは低所得国の段階をすでに終え、中所得段階に達した層位のパターニズムを読めば、“Middle-income trap”に陥る可能性があるとさえ指摘されています。“Middle-income trap“とは頻繁に見受けられる言葉になりましたが、1人当たりのGDP、1人当たりのGNIで見ることが一般的かもしれません。世界銀行は、2009年に1人当たりのGNIに高所得国(996ドル未満)、中所得国(996ドル以上12,196ドル未満)、高所得国(12,196ドル以上)と、指標を示しました。東アジア諸国のなかでは、シンガポールはすでに高所得国、その他の国は、中所得国に分けられます。世界銀行は同時に、中所得国を高位(3,945ドル以上12,196ドル未満)と低位(996ドル以上3,945ドル未満)に分けています。この分類に従いますと、マレーシアは上位中所得国ですが、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムは下位中所得国に類型化され得ます。

“Middle-income trap”では、要素蓄積をベースとする発展戦略下、資本の限界生産性の低下に付随発生する当然の結果に応じてその成果は逓減されてゆく、と直訳すればいいでしょうか、低所得国から中所得段階に入った踊り場で起きてしまう「停滞」や「遅滞」とも換喩できます。この際におけます先行研究からこれらは語られています。

たとえば、アメリカの経済学者のウォルト・ロストウは、経済発展段階説を唱えました。伝統的社会、離陸先行期,テイク・オフ期、成熟期。その中で、重要なのはテイク・オフ期です。第二段階の離陸先行期に離陸のための条件が満たされてゆくことで貯蓄率と投資率の高まりとともにテイク・オフ期を迎え、その後は1人当たり所得の持続的な上昇がもたらされるとしました。開発経済学ではまだ用いられる概念のひとつで、ゲーム理論や高度な抽象理論も有効ながらも、テイク・オフ期における多くの指標検討やその後の理論形成は政策面でも影響が付与されます。

また、サイモン・スミス・クズネッツの計量経済学の観点も援用されます。Modern Economic Growthの前段階にある国々の要素群を先進国と比較・対照することでなぜ「段階」を考えるというものです。しかしながら、低所得からのステージ・アップにおける有用性についての孫引きがし易い先行研究は多く、それは金融経済がこれほど高度化する前の、経済学の合理性を優位にしていた時期の産物でもあるからです。

モデル整理と段階における“Trap”と“Growth”については、制度形成論などからも照応できますので、少しずつ掘り下げられたら、と思います。

テキストブック開発経済学 (有斐閣ブックス)

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