2012-01-01から1年間の記事一覧

COOKIE SCENE 2012

今年もクッキーシーンにはお世話になりました。以下、僭越ながらも、書かせて戴いた本年分のレビューです。2012年1月NILS PETTER MOLVAER『Baboon Moon』 http://cookiescene.jp/2011/12/nils-petter-molvaerbaboon-moon.phpVARIOUS ARTISTS『Noise & Chill …

労働とシステム

以前に、アジアのある多国籍企業の工場を視察に行ったとき、組み立てライン・オペレーションからアーム(手)の高度な動きまで、近未来のような世界があって、そこには不気味なくらいの効率にはかられた規律が敷かれていました。主管が仕切るという訳ではな…

くるり「Remember me」―遠心力を持つ日常

2012年のくるりは元来の岸田繁、佐藤征史の二人の骨組みと言えるメンバーにファンファンと吉田省念の正式加入、四人体制になり、精力的な活動と10枚目のオリジナル・アルバム『坩堝の電圧』での多様な音楽性の展開、そして、何よりも震災以降の日本に、音楽…

『天安門、恋人たち』―非・自由に背を向けて

中国では、80年代には訒小平の改革開放政策により、農業・工業の構造転換が図られるように、それは文革以来とも言える失業率のセーヴをもたらしましたが、物価高騰や一部の冨を牛耳る富裕層が現れるなど、不満要素も散見されるようになります。 1988年になり…

生まれたての影を遊ぶように

もう一年も瀬に。そんな気がしないまま、きっとあらゆる側面で混迷は続くのでしょうが、生き延びた人や新しい環境に飛び込んだ人、もういいや、って投げた人、惜しくもここには居なくなってしまった人、多くの通過者たちへ余りある敬意を。自分のことは、別…

どこまで、経済は自由になれるのか

最近は周囲との話がTPPとFTA、EPAを巡りながら、政権交代の今、「聖域なき〜」の掛け声とともに、多くの検討がはかられてゆく趨勢が見られます。TPPは環太平洋経済連携協定、FTAは自由貿易協定、EPAは経済連携協定の略。どれも似たような語句、日本語に見え…

クリスマスは故郷を奪う

帰る場所があることは美しいと思う。故郷に向かって、気持ちは、人間はつねに引き裂かれながら、いつもそこを追い出されてしまう。エドワード・サイードはだから、ずっとアメリカでも、生まれたエルサレムを巡っていたのだという気がする。でも、誰も故郷に…

予め歌われることのないラブソング―岡村靖幸を例に

ポップ・ソングが突き詰めた形でラブソングに辿り着くとするとき、何故に日本中、世界中に溢れるラブソングはどうして尽きないのか、考察を巡らせてみることに致しました。ラブソングと言いましても、I LOVE YOUが男性側、または、女性側から異性へまたは同…

戦時中に、言葉は消えずに点るように。

スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』について、1967年辺りの頃のこと、と、2013年の「結び目」を考えていました。偏頭痛をデスクの隣に置いて。ベトナム戦争は泥沼に、アメリカの軍事支出は跳ね上がり、国内での暴動も相次ぎ、世界的な世論も…

中村一義『博愛博2012.12.21』によせて―51対49で生き延びること

生き延びてこそ、視える景色がある。おそらく、それは100対0などで決まるものではなく、51対49くらいのギリギリのラインだと思う。精緻に大文字の勝ち組は居ない。幻想の中でその組は形成されていても、その外で通じる言葉は敗けていることなんてよくあるか…

QURULI『坩堝の電圧』

くるりとしてはオリジナル・アルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』から2年振り、10枚目となる。その2年の間に、巷間は劇的に変わってしまった。まずは2011年3月11日の東日本大震災、更には、天変地異や原発を巡ったエネルギーの討議から先進社会が…

深い河

19歳の時に、インドに行きたかったのです。でも、お金とか体調とか色々融通がきかなくて、流れたのですが、それはその時に遠藤周作の『深い河』の持つ世界観に魅せられていたような、若き青い凡庸な希求でした。宗教やキリスト教がどう、などなくても登場人…

urbanized economics

ノート・セッションなどの準備もあり、多層的に世界を考えています。まず、隣国、中国では18日に国家統計局が70に渡る主要都市の住宅価格の価格調査を発表しますが、先月分となる調査では価格上昇が見られました。不動産バブルが弾けたと見られていた中での…

遠い、光

過ぎてみましたら、あっという間だという台詞に収斂し得ない日々で、今年はきっと自身の中でも刻まれる想いは尽きないという気もします。いつからか、私は命題を設定するようになり、もはや戦時中ですらない峻厳な認識に降りていきました。戦時下では神経症…

1960年代の10枚

巷間の「ロック・アルバム100選」やカタログなどはいつも興味深く見ながら、入り口は幾つもあったことに越したものはないと思います。特に配信、相互性が高まった今では、入り口はどんどん作られます。ただし、歴史性、考古学、シーン、様々なものを鑑みない…

年末年始の10冊

新刊を読むこともありながらも、再読する書も多くなり、何らかの形で自身の観点の進路変更のための速度を確かめるような意味性を再訴するものに収斂したような気が致します。V.E.フランクルの『夜と霧』で、「必要なのは生命の意味についての観点変更なので…

―codes

ゆきては、ネットで「言論の自由」はより確約されたというのは逆でもあり、これだけ幅広く整備化されたことで、クラウドという言葉が指し示す通り、そこまで詳しくなき人たちでも、誰かの逝去では個々が異口同音に性急に呟き、R.I.Pの共犯性を要求せしめて、…

勝手にしやがれ―À bout de souffle

今や有名な、1959年のゴダール初長編『勝手にしやがれ』ですが、主演は、ジャン・ポール・ベルモンドで、奔放なチンピラ役で、自動車泥棒を生業としています。そして、彼女を求めての、パリへの道中で警官に追いかけられ、あっさりと警官を一人殺してしまい…

コノテーションを越えて

今年は、多くの表現者や知識人の方と奇遇にも(このご時世、奇遇という言葉自体は苦手ですが、出会いの幅は狭くなったようで溝はより深まっている気がするからです。)繋がりを持つことができました。そこで、より自分の思考を潜らせることも増え、現状に対…

普通の不通

「普通に生きられたら、それでいい」、いつからかそういう言葉を多く聞くようになりました。この場合の「普通」とは、衣食住の最低限の条件が備わって、仕事や未来も仄かにも広がっていることで、それは今の日本で感じ難くなってしまった証左なのだとも思い…

Rollin' Baby It's Alright

イヴェントではTHE BIRTHDAYを観る機会がありましても、単独公演は久し振りでした。正直、2006年の「stupid」の時点で、盲目的に居られなかった、というのは照井さんのプロジェクト、RAVENからROSSOの過程、Midnight Bankrobbersなどを鑑みましても、チバユ…

Passer

《知りたくは 無いけれど 避けるつもりは 最初からない》 (「テディー、ちょっと悪い」)恋に落ちる、という言葉の通り、恋は「落ちる」。夢から醒める、という言葉の通り、夢は「醒める」。落ちること、と、醒めること、感情の起伏は実のところ、この二点…

星野源「知らない」

星野源というアーティストを考えると、時おり人間の深い業を覗き込むような気になる。『ばかのうた』での牧歌性に隠された冷ややかな視点と、醒めた声、そこから「くだらないの中に」へと向かう、日常へと還る中で研ぎ澄まされる服毒。彼の描く日常は誰もの…

growing pain 'indonesia

インドネシアに今、注視が集まっていますが、まず、基礎的なデータとして。人口規模は世界4位、2億3,764万人(注:2010年、JETRO、外務省)、2010年には名目GDP、国内総生産が3,000ドル、日本円では、約23万5,000円ほどを越え、汎的に3,000ドルを境に、耐久…

Cassette Tape de Crépuscule

今や、CMやナレーション、コーラスなど多くの場所で土岐麻子さんの声を聞かない日はない、というくらい、印象を受けますが、元々、シンバルズというバンドに居られました。シンバルズ、その裏に渋谷系辺りの90年代のスタイリッシュな日本の音楽の流れ、小沢…

'bout RADIOHEAD

RADIOHEADの面々が育った場所、UKのオックスフォードという町は、僕も行ったことあるが、『PABLO HONEY』時のインタビューでトムがこのような旨を言っていたのを憶えている。「それなりに楽しくもあったけれど、ゾッとする町であって、トーマス・ハーディ『…

indefinito

誰か、「黒幕」を探そうとしていた日々がだらだら坂のように続いている瀬に、でも、実は「黒幕」は姿をしていないというのが嘘の本当で、本当の嘘はその探索作業の中で無数の作り上げられた仮想敵でなかったか、という気がします。少しの捻じれから利権侵犯…

MICE PARADE『candela』

これだけルーツ・ミュージックと多様な国の音楽をポスト・ロック的に再構築しながらも、散漫な印象になっていない軽やかな作品には久し振りに出会った気がする。NYのアダム・ピアースによるソロ・プロジェクト、マイス・パレードの前作『What It Means To Be…

負ではなく、

病院を好きな方は居られないのでしょうが、自分の何かしらの「不健康」、「病気」のために行く訳で、病室には基本、当たり前ですが、「不健康」、「病気」の人たちが居ます。そこに医者や看護師の方々、見舞いの方などが交差する訳ですが、病棟や病院の種類…

silence is busy.

来年以降は、自分は「籠る」ことになります。それは、発信より受容ではなく、進めてゆく作業群がどうしても長い月日と忍耐が掛かってしまうゆえ、です。だからこそ、今年は過剰さと饒舌を認知閾下で進めてきました。その中で無数の生傷は絶えなかったのです…