日常に疲れたときの五枚〜ポピュラーミュージック

経済機関誌用に寄稿したものの転載・加筆にて。

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今年は、まだ五ヶ月ほどしか過ぎていませんが、この読者の方々には転機や変わり目を迎えた方も多いと思います。また、同じ仕事をしていましても、春時期は周囲が変化しやすく、つい思わぬ疲れも出ているのではないでしょうか。

ときには、仕事のことも忘れて、とはいかない中、休日の午後、通勤の途中に音楽もいかがでは、とポピュラーミュージックの五枚を担当、選出させていただきました。どれも今年にリリースされ、手に入りやすいものばかりです。最近の音楽はやかましくて、落ち着かない、そんな方々も耳を傾けてくだされば、きっとそうでもないとわかるかもしれません。また、買い物に出たときにこれらのCDを観て、試聴してみる機会もありましたら。

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・AUFGANG『Istiklaliya』(In Fine)

フランチェスコ・トリスターノという気鋭のクラシック・ピアニストの方を軸に、大胆にクラシック・ミュージックとテクノ・ミュージックの爆発をえがきました(AUFGANGとはドイツ語で昂揚を意味します!)トリオの最新作です。不思議な展開となめらかな旋律には息をのむものがあります。ジャズのインプロヴィゼーション(即興演奏)のような、ち密に練られたアレンジメントもよく聴くと、面白いのではないでしょうか。

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AUFGANG『Istiklaliya』
http://cookiescene.jp/2013/04/aufgangistiklaliyainfine.php

Ghost on Ghost

Ghost on Ghost

IRON & WINE『Ghost On Ghost』(4AD / Hostess)

アメリカのサム・ビームというシンガーソングライターの方の新作です。雄大なカントリーから70年代のジェームズ・テイラーキャロル・キングのような穏和な響き、そして、彼の優しい声がいまだ、遠いかの、アメリカの伝統音楽を今に再現している、そんな感じを受けるかもしれません。

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IRON & WINE 『Ghost On Ghost 』
http://cookiescene.jp/2013/05/iron-wine-ghost-on-ghost-4ad-h.php

BIBIO『Silver Wilkinson』(Warp / Beat)

いわゆる、エレクトロニック・ミュージックです。エレクトロニカと言ってもいいかもしれませんが、電子音楽と聞いただけでイメージするのはYMOやまた、読者の方々もTVなどで聴かれたりするでしょうパフュームやきゃりーぱみゅぱみゅのようなものを想いだす、そんなイメージとは違います。UKのスティーヴ・ウィルキンソンという一人のマルチ・プレイヤーが四季や自然、日本の俳句を意識して作りあげました、例えば、なにもない昼下がりの自然が似合うパノラマ映画のような作品です。電子音も人肌あたたかく、やわらかく馴染んできます。

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BIBIO『Silver Wilkinson』
http://cookiescene.jp/2013/05/bibiosilver-wilkinsonwarp-beat.php

Stranger

Stranger

星野源ストレンジャー』(Victor / SpeedStar)

最近の日本語の文法を大事にしていない音楽は苦手で、という方もこの作品は聴けるのではないでしょうか。まだまだこれからの活躍が期待されるアーティストの三作目となりますオリジナル・アルバムです。星野さんはちなみに、俳優などもやられているマルチな才能を持っている方で、これからは多方面で露出も増える気がします。どこかなつかしいフォーク・ミュージックやナイアガラ・サウンドも感じられるかもしれません。そして、よく伝わる日本語の歌詞と朴訥な彼の歌声には気付かされるものがあります。


・MELODIA『Saudades』(Own records)

アルゼンチンのフィデルコ・デュランド氏と日本の伊達伯欣(だてともよし)さんのユニットからなる作品です。これはレコードなのですが、今、アナログ・プレーヤーにレコードを乗せて、針をおとすことそのものがとても贅沢なことではないか、と思います。この作品は、フィールド・レコーディング、いわゆる、野外の様々な音や自然音も取り入れ、ひとつの音風景を作り上げています。きっとA面を聴いて、B面を聴こうと思うころには日常のとがった感情もまるみを帯びている、そんな気もします。