MUSIC

スガシカオ「航空灯」によせて

傷ついた人たちに「頑張ろう」と言うのは傷痕に塩を塗るようなもので、新聞の読者投稿欄の「正論」くらい味気なくなる。ひとつの喜びや誰かの成功を多くの人たちとシェアして、今を盛り上げる風潮にメディアがすぐに手のひらを返すのも「仮想敵」ができた方…

THE GREEN KINGDOM『Expanses』

デトロイトから着実に作品とキャリアを重ねるMicheal Cottoneのソロ・プロジェクトThe Green Kingdomの新作が届いたが、順当なリリース・ペースと基本、アンビエント・ミュージックからポスト・ミニマル、フィールド・レコーディングを取り入れた基本姿勢は…

【REVIEW】LILLIES AND REMAINS『LOST』(Fifty One)

結成当時から、不思議なほどに課されたバンド内の独自のストイシズムと自身たちの美学を護り続けるバンドと思っていたが、やはり、ドレスコーズ的な佇まいがこの日本では大きな範囲ではクールに受け入れられず、ゴシック的に、またはポスト・パンク、ニュー…

今、なぜUSで『OK COMPUTER』なのか

もはや、映像学的に、監視カメラで張り巡らされた映像群の中で、手ぶれ込みのハンディカムの映像、8mmビデオ、高精度化したスマート・フォンの映像、それらの総合的なリミックス・ワーク的な「映像美」的な許容幅が増えましたのは、その映像を録っている当事…

星野源 ―ひとつになれない世界で、差異を生きること

今は亡きライター、編集者の川勝正幸氏が2010年に発売された彼のソロ・ファースト・アルバム『ばかのうた』のブックレットに寄せました取材、文章があります。そこで出てくる印象的なものは、ジャズ・ピアノがある家で、しかし、ビル・エヴァンスのようなモ…

【REVIEW】SUN GLITTERS『Scattered Into Light』

昨日に無事に日本盤がリリースされたということで、光栄なことに日本のリリース先、AYさんのレーベルHP(http://www.anay.jp/ay/ay033/)にも簡易な拙文が載っていますが、追補版をここに。気になった方は是非、試聴でもしてみて下さい。***Sun Glitters…

Musipl(2013年寄稿纏め−1)

Musiplという音楽情報サイト(http://www.musipl.com/index.html)に寄せましたテクスト群です。年内には100本に達する中、50本目からバランサー的に色んな方を紹介してきましたが、90年代から活動をしている、ソロ・アーティストみたいな自分の中でのルール…

くるり「最後のメリークリスマス」によせて

『坩堝の電圧』の「glory days」は本当に、大事に唄われた7分半の曲だった。「ばらの花」と同じ福島県いわき市薄磯海岸で撮られながらも、全く違った光景。くるり自身の轍を刻んだ幾つものオマージュ。その後のライヴでもハイライトを占める重要な意味を占め…

My Private Best 30 Discs 2013

今年はいつになく多くの、世界中の音楽を聴きながら、なぜか振り返ってみますと、穏やかで凪のような作品群を好んでいたような気がします。移動中や少しの作業の合間に、また、ライヴで触れる音楽にも自然とそういった優美なものを求めていたのは、何だか狂…

【REVIEW】Motohiro Nakashima『雨がやんだから、公園へ行くことにしよう』(november)

現代の「うたもの」は、いつかのジム・オルークの『ユリイカ』を経由して、トクマルシューゴ的なトイボックス・ポップと交錯するのかもしれず、『In Focus?』の初回限定盤の99種の楽器フレーズを付けたボーナスCDでの隙間を縫うように、ほんの6曲には夏の夕…

【REVIEW】Ulises Conti『Atlas』(Flau)

編集盤というと、どうにも簡易な手引書、入り口という意味が強く、ダイジェスト的になってしまうことが多い。それでも、そこからアーティストを深く知ろうとし、オリジナル作に降りてゆく契機にもなる。アルゼンチンのウリセス・コンティは汎的なアルゼンチ…

【REVIEW】Nils Frahm『Spaces』(Erased Tapes)

ハウシュカ、コリーンなどポスト・クラシカルと呼ばれる枠の中で捉えられていたアーティストの近作がポップスの造型に則ったものになっていたように、どちらかというと、現代音楽の中でもオルタナティヴなアティチュードを持った方が多いが、主に、ドイツ、…

【REVIEW】Juana Molina『Wed 21』(Crammed Discs / Hostess)

教育学者の里見実の『ラテンアメリカの新しい伝統 ―「場の文化」のために』(晶文社)にはこういう箇所がある。ラテンアメリカの新しい伝統―「場の文化」のために作者: 里見実出版社/メーカー: 晶文社発売日: 1990/07メディア: 単行本この商品を含むブログを…

【REVIEW】Jensen Sportag『Stealth Of Days』(Cascine)

テクノ・ノワールとでもいえるような、深い霧の中で落ちてくる鳩たちや青い影が横切る、ジェンセン・スポータグの06年以来となる、待望のフル・レングス、セカンド・アルバムが届いた。ジェンセン・スポータグとは、オースティン・ウィルキンソン、エルヴィ…

【REVIEW】工藤 鴎芽『Blur & Fudge』

《何も怖くないさ 今でも日常に在るんだから》 (「「Biology」)悲痛でマッドな叫び声から始まり、ノイズに掻き乱されてゆく。個人的な極限の心理恐慌はこんなものなのではないことは、僕は先ほどのフィリピンでのちょっとした災厄の中、巻き込まれた際の「…

星野源「地獄でなぜ悪い」によせて

いつも窓の外の 憧れを眺めて 希望に似た花が 女のように笑うさまに 手を伸ばした―手を伸ばしたが、届いたのかは分からない。一度、病気で倒れ、復帰しての『Stranger』というアルバムに周囲ほど自身が乗ることが出来なかったのは少しサウンド以外もデコラテ…

about Musipl etc.

京都で生まれた訳でもなく、外部からふとした契機で基本は「学び処」として京都に関わることになり、付かず離れずながらも、何かしら甘やかせてくれたり、厳しくしてくれた場所になってしまいました。もう無くなったしまった景色や居なくなってしまった人た…

0.8秒と衝撃。『NEW GERMAN WAVE4』

スティーヴ・ライヒの1971年に発表した『Drumming』 はアフリカ音楽のポリリズムに影響を受けているが、前年にガーナ大学にてドラミングの研究に勤しみ、3拍子をベースにパーカッションの幾重ものトランシーな反復、ズレ、そこから旋律への回帰の中で、ミニ…

窮鼠、猫を噛めるための言語速度

《ごめんなさい、大学に行かしてもらって なんにもせずに五年! 輝いていたあの頃と悪い意味で俺は変わってない》 (「キャベツ」)***2012年度の内閣府の「若者雇用を取り巻く現状と問題」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koyoutaiwa/dai7/siryou1.p…

private favorite 30songs 2013

慌ただしくなってしまう前に、今年を振り返ろうと思いながら、あまりに今年は環境変化や密度がありすぎて、取りこぼしてしまいそうなくらいなので、こういった年はおそらく、数年後、「答え」が出ていたりするので、そういう想いでいたい気がします。ひとま…

【REVIEW】FOUR TET『Beautiful Rewind』

カットアップ・ハウス(パソコンのマウスをカチカチする擬音から、クリック・ハウスともいうが)とは或る意味でコロンブスの卵のようなもので、マーク・ルクレールがアクフェン名義でリリースした02年『マイ・ウェイ』のサウンド内には、ハウス・ミュージッ…

くるり「Remember Me」によせて

くるりは、基本、ずっと会者定離を歌ってきた。それはバンドの形態としても、歌そのものとしても。ベースの詞・曲を担う岸田繁はいつも間に合わない未来について留保しようとするために、ときに、追いつかない感情にせめてもの行間を創るために、音楽の形式…

【REVIEW】NIGHTMARES ON WAX『Feelin' Good』

90年代のアフタアワーズ・ミュージック、チルアウト、もしくはブリストル経由の煙った音の香りに包まれた経験がある人ならば、ナイトメアズ・オン・ワックスの名前を想い出すことはあると思う。《Warp》の中でも最古参であり、その後、《Ninja Tune》、《Mo’…

【REVIEW】ARCTIC MONKEYS『AM』

ロンドン・オリンピックのセレモニーでのアークティック・モンキーズは捲し立てるように「I Bet You Look Good on the dancefloor」を大観衆に向けて歌い、喝采を受けていた。その光景はTV越しに観ながら、圧巻で、06年のファースト・アルバムの熱量をあらた…

スピッツ『小さな生き物』によせて

《正義は信じないよずっと 鳴らす 遠吠えのシャッフル》 (「遠吠えシャッフル」)この数年のスピッツを取り巻く状況は順風満帆なものばかりではなかった。2012年のスペシャル・アルバム『おるたな』(http://cookiescene.jp/2012/01/universal-1.php)はあ…

【REVIEW】COLLEEN『The Weighing Of The Heart』

トム・ヨークやビョークが称賛したアイスランドのオーラヴル・アルナルズもそうだったが、エレクトロニカ、IDM以降に古典的な音楽を混ぜ込んだ、いわゆる、ポスト・クラシカルとは現代音楽の幸福な実験過程であり、その過程の「生成」途上において巻き込まれ…

【REVIEW】VAN DYKE PARKS『Songs Cycled』

そして、「孤独」に戻る。フランツ・カフカの未完たる『アメリカ』は、主人公たるカール・ロスマンも自身を実質上、彼を監督する人間に振り回され、入れ子的な構造に巡り、放たれるのは自我という不安定さ、であり、未然の決意である。「アメリカ」は非/完…

【REVIEW】sonicbrat『Stranger to my room』

昨今のニューエイジ、ポスト・クラシカルと呼ばれるカテゴリーでもないが、そういったジャンルはよりエレガントになってゆき、もはや、アート的な要素をどんなジャンルよりも交叉させており、その貪欲さも面白い。現代音楽やミニマル・ミュージックといえば…

Yosi Horikawa『Vapor』―ゼロではない生々しさ

寄稿させて戴いたのを、ここに転載しておきます。***冬の朝が晴れていれば起きて木の枝の枯れ葉が朝日という水のように流れるものに洗われているのを見ているうちに時間がたって行く。どの位の時間がたつかというのではなくてただ確実にたって行くので長…

DARRYL WEZY『MAZE of FEARS』 ―ポスト(その後)ゆえの主流

ジャカルタで先ごろ、ブラーをメインにしたイヴェントを観たとき、とてもニートで綺麗な服できめた男女を観たが、経済的与件のみだけでなく、インドネシアで急激に育ちつつあるニューノーマル層、そして、そのチルドレンたちの「クール」への視線は鋭く、鮮…