【REVIEW】LILLIES AND REMAINS『LOST』(Fifty One)

結成当時から、不思議なほどに課されたバンド内の独自のストイシズムと自身たちの美学を護り続けるバンドと思っていたが、やはり、ドレスコーズ的な佇まいがこの日本では大きな範囲ではクールに受け入れられず、ゴシック的に、またはポスト・パンクニューウェーヴ経由のアンフォーマル・ウェア的な在り方として受け止められてきた孤高のバンドという気がしないでもないのは事実だろう。

想うに、かのthee michelle gun elephantはパブ・ロックをベースにスーツ・スタイルに日本語での野放図な展開をアリーナ・クラスまで展開させ、また、BUCK-TICKデカダンスと華麗なるライヴ・パフォーマンスで、今も進行形でファンを拡大させている。

では、L’Arc〜en〜Cielはどうだろうか。フランスやアジアを始め、世界を舞台に活躍する日本のバンドとしてはいささかスポーティッシュでもあり、過去に耽溺していたようなナイーヴな背徳性は、今は薄れてもいるといえる。しかし、そのドラマーであるyukihiroは90年代のミニストリーナイン・インチ・ネイルズのようなヘビーなインダストリアル・サウンドを承継したacid androidというプロジェクトで本体のバンドとは違う独自の色を出している。そのacid androidとクロスするように、LILLIES AND REMAINSのフロントマンのKENTは今回のEP『LOST』で、巷間的にはマイナーチェンジ、傍目には見え辛いかもしれないが、新境地へ少し足を踏み込んだ。

***

前作のシングル「I Survive」(http://cookiescene.jp/2013/04/lillies-and-remainsi-survivefi.php)での強靭なリフ主体ハードな曲調にKENTの直截的な内心に持つ喪失、葛藤と微かな漸進をモティーフにしたイメージの延長線上と、小規模ながら、「同時代性」がミッシング・リンクしたような感覚もおぼえた。彼らは、基本、同時代性とは別の場所で独特のカテゴリーを研ぎ澄ませてきた。

ポスト・パンクニューウェーヴ大江健三郎の著作、トランスパーソナル心理学インド哲学、KENT独自のチョイスによる特有のセンスのカバー・アルバム『Re/Composition』、世界的なバンド、PURPLEという盟友たちとのスプリット・アルバム、そして、自身主催のイベントやノベンバーズとの対バン、PLASTICZOOMZとの連携と多くの試みをなぞりながらも、それでも、彼ら自身の見据えるべき「傍流としての往き方」が掴めずにいた人も多いと思う。

昨年の2013年にUKのアパレル・ブランドのPAUL SMITHのJPN JEANSと組んだシューティングもサマーソニックの大阪会場でのプロジェクターで筆者は何度か観たが、彼らは肝心なそのステージには「居なかった」。つまり、当事者として彼らは何かしらメタ的に傍観者的であるのが残念でもあり、このEPの中では昨今、インダスリアル・サウンドリバイバルへの目配せもあるが、それは機械的に肉体性を"奪還せしめる”というよりも、「重み」によりビート感覚を強めるという要素もある。

より果敢に攻めたインダストリアルで硬質なサウンドと、メロディアスなシンセが活きた曲やこれまで通りの彼らの因子まで含めて、6曲といえども、非常に聴き応えがある。端的に、かのラムシュタインを彷彿させるわけではないが、クラウトロックの冷ややかな空気感と幾つもの暗喩、輪郭とそこに連なってくるだろう人たちへ手を差し伸べ、行列を寄せる何かがこれまでより、はっきりしてきてはいると思う。

ちなみに、リード・トラックたる「This City」はまさにインダストリアルなビートが重厚に響きながらも、不穏な咆哮と「I Survive」以上のブルータルさと好戦性が残る曲になっている。

そして、歌詞も『LOST』EPの通底に添うように、都市的な中での「個」の疎律であり、最後のラインでは〈In this city you'll just see your vanity(この街で君はさ、虚栄心しか見えないよ)〉と挑発する。

以前に、KENTと話したときも話題になったが、機械的に高度に資本化されてゆく社会で、人間性やその心理は粗雑になってゆくのではないか、ということを今、タイトにそして、ダイレクトに彼らは伝えようとしている。比喩も暗喩も少なくなったリリック、硬質なサウンドに乗せて、コードを敷く。その「コード」を分からないという人が居てもいいかもしれない。ただ、もう喪ってしまった景色や心情は戻らない。そういったことだけは踏まえていかなければいけない。

都市の中では人は名前を失う。そういった喪失的な何かを巡りて、ほのか希望的な、いや、少しの現実の行間を巡って、リリーズは歩幅を静かに歩む。それは作品を重ねるごとに、真価が試されるバンドやアーティストが多い中でこの『LOST』もまだ途程であることを示しながらも、向かおうとする方向が非・マテリアリズムへ確実に定まっていることを示している証左だということでもある。彼らの美学は初期から変わりなく、色彩豊かではなく、モノクロームにビルド・アップされてゆく。ヴィジュアル・イメージもより洗練され、今年はさらに面白くなりそうだ。

筆者注)2014年2月12日リリース予定

LOST

LOST