THE GREEN KINGDOM『Expanses』

デトロイトから着実に作品とキャリアを重ねるMicheal Cottoneのソロ・プロジェクトThe Green Kingdomの新作が届いたが、順当なリリース・ペースと基本、アンビエント・ミュージックからポスト・ミニマル、フィールド・レコーディングを取り入れた基本姿勢は変わらず、ただ、今作はモスクワの良質レーベル〈Dronarivm〉からのリリースということもあり、少しの変化も見られる。

Dronarivm
http://dronarivm.com/

ちなみに、そのレーベルでの今作の紹介にあたっては、クラシック・アンビエント・ミュージック、反復と持続するトーンによって世界を広げるというようなキャッチがついているが、ブライアン・イーノから一時期のシガー・ロス、はてはオーラヴル・アルナルズを思わせる引き延ばされたトーンとクラシカルな佇まいに混じる雑味と、子守唄のような旋律は、「Expanses」と便宜的に曲名が振られてはいるものの、静かな漣のようにサウンド・レイヤーが聴き手を夢心地に運ぶ。

どうにも、この時代にアンビエント・ミュージックについて考えようとすると、ミニマル・ミュージックのみならず、例えば、空港音楽(For Airport Music)とはまた、違う、高度テクノロジーでネットワーク化されたシステムの中での緊張への思考視座も含んでくる。反復と差異、均質と変化、連続と非・連続という二項図式は多少の無為対象になるとともに。

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なお、前述した“少しの変化”というのはこれまでどおりのデジタル・ビートやハーモニーに挟まれるデジタル・ノイズやバグのような残響や、ディープなダブ加工が見られるということもあり、それはSegueやTobias Hellkivitによるリミックスで過去との差異がわかるというのもある。つまりは、シンフォニックにドローン的な要所に深く内側へと巣篭る音風景の断片を感応できるという作品としても興味深い。内側に潜るほどに、外との断絶が生まれえず、外側の喧騒との異化がでてくる。その異化が響く。

ラ・モンテ・ヤングの作品の数時間が1時間に閉じこまれたという印象も受ける、この『Expanses』は弓がしなるように、時の短さを音の中に弾ませ、退屈に思えてしまいがちなアンビエント・ミュージックを次の地平へ運んでゆく予感を込めた意匠とともに、なだらかに続く。デッサンで白黒のイメージを喚起させるジャケットもそうだが、こういった作品が攫う可能性には期待が募る。

Expanses

Expanses