【REVIEW】Ulises Conti『Atlas』(Flau)

編集盤というと、どうにも簡易な手引書、入り口という意味が強く、ダイジェスト的になってしまうことが多い。それでも、そこからアーティストを深く知ろうとし、オリジナル作に降りてゆく契機にもなる。アルゼンチンのウリセス・コンティは汎的なアルゼンチン音響派やポスト・クラシカルなどの囲いを抜け、映像喚起/視覚感応性の強い音像の中にこの10年のキャリアを費やしてきた。自身が主宰の《Metamusica》からの7枚のアルバム。特には、ピアノだけではなく、ディジェリドゥ、オートハープマリンバなど多彩な楽器を自ら用い、アレハンドロ・フラノフをはじめとした客演もうまく活きた2003年のファースト・アルバム『Iluminaciones』はアヴァンポップの佳作だった。

また、2010年のソロ・ピアノ作『Posters Privados』では「Budapest」や「West Hollywood」といったクラシックまでも叙情的に繊細に奏で、巷間から高い評価を得た。

その他、舞台音楽、映画音楽、多岐に渡る音楽活動は彼自身のフォーカスを定めるには、難しくもあり、こうしてよく練られた編集盤が出ることで、ウリセスの才気の一端が伝わることは嬉しく思う。

この『Atlas』では、10年のソロ・キャリアの中から15曲をアーティスト、レーベル・オーナーとの意図の下に編集されているが、逆に一枚のオリジナル・アルバムだと難解さをおぼえてしまうかもしれない様式美を越え、断片が全体を希求し、全体は断片のイメージを増幅せしめるようなところがある。ピアニストとしての彼のタッチも称賛に価するが、やはり「空間」を掌握する構成力に唸らされる。シンガポールソニックバレット、ドイツのニルス・フラームの新作が持つのと近似した、室内楽的に、同時に、その隣に添う当たり前の生活、空気感までを揺らす、厳粛な美意識とリリカルな感情の綾が交わるような、悠然たる佇まいがある。

シンプルなピアノ曲を主軸にした曲、アコースティック・ギター、ストリングスなどの滑らかな楽器群の質感を活かしたモダン・クラシカル、フォークトロニカ、荘厳さも帯びたシンフォニーまで間断されず、流れを大事に編まれている叮嚀なコレクションだと思う。

Atlas

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