【REVIEW】Motohiro Nakashima『雨がやんだから、公園へ行くことにしよう』(november)

現代の「うたもの」は、いつかのジム・オルークの『ユリイカ』を経由して、トクマルシューゴ的なトイボックス・ポップと交錯するのかもしれず、『In Focus?』の初回限定盤の99種の楽器フレーズを付けたボーナスCDでの隙間を縫うように、ほんの6曲には夏の夕立ちのような慕情をメロディカやハーモニカを吹く際の吐息がなぞり、アコースティック・ギターの爪弾きがロンドを描くように、ささやかな空気が震える。motohiro nakashimaのオリジナル作としては、09年の《Scholar》からの『We Hum On The Way Home』以来となるミニ・アルバム『雨がやんだから、公園へ行くことにしよう』は前作のコンセプトだった“家族”をモティーフにした延長線に、奥方のミチルとともに、初となるしっかりした歌が入り、夫婦のハーモニーが時おり柔らかく響く。

元来のフォークトロニカ的意匠から前作に向かう中、オーガニックやメロウネスといった冠詞が彼のサウンドには付き纏いがちだったが、筆者としては、そういった匿名的なフレーズよりも、どこか無機的な静けさや郊外の団地の下で揺れるブランコをカモフラージュするような喧噪を避けた複眼性でもって、反語的に、鳥の囀りや葉擦れる音、公夕焼け、雲の連なりといった具現化できない抽象像を音にしている印象を持っていたものの、今作はアルバム名の日本語の文章が示すみたく、日々に編み込まれている優しさが音になっている。

音楽のみならず、アートワークまで手掛ける彼のセンスも極まり、聴いていると、どうにも面映ゆい感情も波紋を広げる。もう大人になってからでは手に入らないかもしれない、そんな感情の揺らぎや慕情、ノスタルジアがレタルギア(嗜眠症)と相克する寂寥。ラルフ・タウナーニック・ドレイクペンギン・カフェ・オーケストラなど彼の愛好する音楽から影響は視えながらも、《ECM》や《CTI》などへの作品へのオマージュも垣間伺える。「Raindrop Painting」、「Olive Branch」といった曲名からも想像が拡がり、最後は「The Ballad Of A Girl Called Tetsu」で円環的に自身の家族のための、どこかの家族のための、最小単位のサウンドトラックに還る。

【Motohiro Nakashima HP】
http://www.boreas.dti.ne.jp/~motonaka/index.html
【Bandcamp】
https://motohironakashima.bandcamp.com/