【REVIEW】NIGHTMARES ON WAX『Feelin' Good』

90年代のアフタアワーズ・ミュージック、チルアウト、もしくはブリストル経由の煙った音の香りに包まれた経験がある人ならば、ナイトメアズ・オン・ワックスの名前を想い出すことはあると思う。

Warp》の中でも最古参であり、その後、《Ninja Tune》、《Mo’Wax》などのレーベルに影響を与え、そのサウンド・メイクは後進のアーティストたちにも新しい道を切り拓く先駆けでもあったが、寡作とマイ・ペースな足取りゆえに、その時の作品のジョージ・エヴェリンのモードで変わることもあり、レゲエ、ブラック・ミュージックへの傾倒と深い夜のとばりに合うような02年の『Mind Elevation』、08年の『Thought So…』では、エヴェリンの故郷たるUKのリーズから新居のスペインのイビザまでの長旅にインスパイアされたロードムービー・ミュージックであり、仲間同士の親密なパーティーのように、軽やかで、歌モノに関してもスイートでビートも鋭角性とは程遠い、バウンシーで丸みを帯びたものであった。

その、イビザからの五年振りの新作『Feelin’ Good』は万華鏡のようにこれまでの軌跡を凝縮したような密度の濃い内容になっている。

ピアノとスムースなビートが運ぶジャジーな「So Here We Are」から始まり、アブストラクト・ソウル的な甘美な3曲目「Master Plan」ではカリフォルニアのフィメール・シンガー、ケイティ・グレイの艶めかしいボーカルが游泳する。5曲目の「Now Is the Time」ではダヴィーなレゲエ・ミュージック、続く「Give Thx」は往年のスタックス・サウンドを思わせ、と従来どおり、ブラック・ミュージックへのルーツ探求とともに、新しい試行を進めてきたこれまでを思えば、この『Feelin’ Good』は想像するよりも、ハイなアルバムではなく、今の時代におけるビート感覚とはズレもあるものの、全体に漂うヴァイヴがとても心地良く、ユーフォリックかつセクシュアルである。

ソウル、ラガ、ファンクからインナースペース・ダヴまで、特に圧巻なのは10曲目の「Om Sweet H(om)e」だろうか。チベットの僧侶の読経のループとパーカッションの多様な重なりがもたらすトランシーな美しさ。ナイトメアズ・オン・ワックスこと、ジョージ・エヴァリンが今作において、元・ゼロ7の男性シンガー、モーゼスやセバスチャン・シュトゥドゥニツキー、ウォルフガング・ヘフナーなどの面々とともに作りあげた意図はジャンルレスという文脈ではなく、時代のクロスオーバーともいえるかもしれない。

90年代と10年代の間、00年代に急速に進んだビート・ミュージック、そして、クラブ・シーンの結い目をレトロ・フューチャリスティックにアップデイトしようということ。だからこそ、ジャザノヴァ、ゼロ7、パット・メセニーなどでの活躍する彼らと組み、今のイビザでどういう音を求めることができるのか、そういう意図が確かに見える。

Feelin’ Good [輸入盤CD] (WARPCD241)

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