【REVIEW】FOUR TET『Beautiful Rewind』

カットアップ・ハウス(パソコンのマウスをカチカチする擬音から、クリック・ハウスともいうが)とは或る意味でコロンブスの卵のようなもので、マーク・ルクレールがアクフェン名義でリリースした02年『マイ・ウェイ』のサウンド内には、ハウス・ミュージックアヴァンギャルド性をエクレクティックにポップに昇華したものとして、後進者に道を敷いた。

マイ・ウェイ』自体はもはやクラシックになってもいるが、いまだに「Deck The House」(http://www.youtube.com/watch?v=w7nNF0FJ3-I)は色褪せず、クラブでもスピンされていることがある。ラジオの音源群をサンプリングし、コラージュ的にキャンパスにビートとヒップホップ色の強いリズムで、あくまで踊ることができるクールな音楽として表象するさまの鮮やかさ。

そういったカット・アップ的手法といえば、今や当たり前になっており、それは音楽のフィールドに限らず、映画や多くのアート・シーンで、“断片”の連鎖により、全体性を求めようとするのではなく、断片から逆説的に全体性を語ろうとしているようなところがある。眼前の情報量を即座に捌く審美眼が問われるのではなく、その審美眼が捉えている景色は受容者に既に、カット・アップされてしまう倒錯が求められること。そんな中で、スコット・ヘレンはプレフューズ73名義で"ボーカル・チョップ"というラップを切り刻む手法でカットアップ・ハウスと違った形で、一つのパースペクティヴを開発し、模倣者をあまた生んだが、彼自身がそれを封印した作品や多岐に渡る活動内でアンビエントからソフト・ロック的な試みまで跨いでいったように、彼らは同じ轍を踏むことはなく、多彩なリーチを拡げてきた。

そして、UKのキエラン・ヘブデンことフォーテットhttp://cookiescene.jp/2012/07/four-tetpinktext-hostess.php)も彼らとともに、時代を切り開いてきた一人に数えられるだろう。

フォークトロニカの先進者とも名称づけられながらも、ディーセントな音作りにも評価が高く、また、シンプルなダンス・トラックからリミックス・ワークまで幾つもの彩りをこれまでも見せてきたが、今作『Beautiful Rewind』はソフィスティケイティッドされたアルバムとして、陶然たるエレガンスと実験過程としての今が貫かれている。

先に公開されていた「Kool FM」(http://www.youtube.com/watch?v=l9cd1dF34A8)はシンプルなテクノながら、不思議な掛け声が何度も混じり、トライバルなリズムがじわじわと身体性を揺らす曲、「Parallel Jalebi」はオリエンタルな雰囲気に震えているような抑え目でミニマルなビートにフィメール・ボイスが泳ぐ幽玄的な曲だったゆえに、アルバムの全体像として掴むのは難しかったが、こうして、全体を聴くと、アフロ・ポリリズミックな要素とフォーテットらしいセクシャルなダンス・トラックが並存し、カット・アップ的手法も要所で用いられ、アンビエントからIDM的な幅まで引き出しの多さはさすがだといえる。

最新のビートや何かしら斬新な試みがここにある訳ではなく、個人的には、スペーシーでサイケな「Ba Teaches Yoga」、優美な「Unicorn」辺りが今作の中でも魅かれたが、それらも斬新な何かがある訳ではない。但し、おそらく、フォーテットに求めている何かとは多くの人にとって、そういったものと思えば、その期待を裏切らない彼の繊細に織り込まれた音の蠱惑性に気付くこととも忖度出来る。

冒頭から触れてきた彼らがどんどんキャリアを更新し、日和ることなく、停まらずにいる行為は頼もしく、フォーテットもこうした充実した作品を出してくるというのも嬉しい。

Beautiful Rewind [12 inch Analog]

Beautiful Rewind [12 inch Analog]