my private 5 selection of Romania Modern Minimal

ルーマニアの“ダンス・ミュージック”と括るには限界があるのは、地域性とグローカルという流れの中で、メディア的にピックされる北方のバカウから一気に人気を博し、DJ兼サウンド・プロデューサーのRARESHや、もっと汎的には拓けたダンス・ポップの要素を包含しつつも、不思議なノスタルジアを備えたLAURENTIU DUTAにしても、特殊性は以前の状況認識よりも薄れているという節がありながら、EDMやグローバリズムの潮流に回収された音楽ばかりではなく、モダン・ミニマル、テック・ハウスの面ではより尖ってきている印象があり、既に注視が集まっている。

言わずもがなの〈All Inn〉から出る作品、ヴァイナルは興味深いものも多く、テック・ハウス的なものからディープ・ミニマルまで、硬質ながら、しなやかさもあるのが多い。〈Pleasure Zone〉も俄然、いい作品をリリースしてきている。

個人的な選好だが、最近、気になった五曲をここでピックしてみようと思う。もうトピック・アップされ尽くしたきらいもあるものの、再確認になるかもしれず、という意味で。

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・ADA KALEH「La Rasarit」

元々は彼のサウンド・ワークの良さは一時期のフォーテットリッチー・ホウティンを彷彿させる執拗な反復の中にズレを巻き込み、ジャジーでスムースな昂揚を引っ張ってゆくところにあったが、〈SUBTONIK〉レーベルを経て、セルフ・レーベルからのシングルたる『La Rasarit』は、タイトル曲は、堅実なモダン・ミニマルの範囲内だが、じわじわメロディアスな要素とオリエンタルなシンセが絡み、後半に向かうまでの展開が美しい。B面ではハードで性急なトラックに眩さを閉じ込める術を流石で、より今後が楽しみになる内容になっていると思う。

「La Rasarit」

・CNTRL「CONTROL」EP

昨ごろの〈Pleasure Zone〉の勢いも凄いものの、〈All Inn〉との差異はよりバウンシーで機能的な肉体性があるものが散見できるというところかもしれず、このCNTRLも無愛想に聴こえる。しかし、ソリッドに音と音との行間を「活かしている」という意味では、ダンス・ミュージック、4つ打ちの今を描くものとして、踊ることそのものへの意識が詰められている気がする。

「CONTROL」EP
https://soundcloud.com/dbh-music/plz010-cntrl-control-ep

・VERICO「Numeris」EP
リリース時には散々、話題になったものの、ルーマニア・モダン・ミニマルという名称抜きにRARESH+VLAD CAIA+CRISTI CONSが組んだプロジェクトだけあり、サウンド・デザイン、エディットそのものが面白い。緻密に組まれた音響だけではなく、こういったウワモノや音を巻き込みながら、トラックが膨れ上がってゆくという意味ではサイケでもあり、初期〈Warp〉系のアーティストたちのマッドな実験感覚を想起してしまう。

VERICO「Numeris」EP

・ADRIAN NICULAE「Acoustic」EP
PRIKUとしてキャリアを着実に重ねてきたが、自身の新レーベル〈Motif〉を立ち上げ、本名としてリリースしたシングル。気合いの入り方が過去とは違うような、獰猛さとダヴィーな空間に耳に刺さるように刻まれるビートが心地良く、それでも、過去のベースメント・ミュージックへのオマージュにも溢れているようで、こういう音が鳴るウェアハウスが自然と夢想できる。

ADRIAN NICULAE「Maker」

・ROMANSOFF「Raw Tools」

〈Raw Tools〉のナンバリング002だが、まだまだ「粗さ」があるのが魅力的で、その意味で、上記と比して、“これから”をもっとも感じさせる要素があり、ミニマルやテック・ハウスの括りよりもテクノ・ミュージックの順当な遺伝子を継いだ音を含んだトラックなどはタイム・リープではなく、時代の巡り移りを想う。

ROMANSOFF「Get Down」