on your incurable romantic world

チバユウスケは08年の詩集『ビート』のあとがきで以下のような旨を記している。

チバユウスケ詩集 ビート

チバユウスケ詩集 ビート

去年、ザ・バースデイのファーストツアー中に親父が死んだ。
冷え込んだ冬だった。

(中略)

博多のライヴを終えて最終の飛行機に間に合ったので
実家に帰った。親父は棺桶に入ってた。
初めて親父の顔に触った。びっくりするほど冷たかった。
ドライアイスのせいだと思った。
親父の顔を見ながらビールを飲んだ。
親父は「俺にもよこせ」とは言わなかった。
ただ目を閉じてピクリともせず眠っていた。

(中略)

自分もいつか死ぬんだなって強く思った。
今まで何人も友達が死んで悲しかったけど、
実際そうは思わなかった。

***

thee michelle gun elephant時代からの歴史を振り返って彼のことを再定義のも別途したいが、現在進行形で異様な研ぎ澄まされ方をしている詩に興味がいく。THE BIRTHDAYのシングルとして転機となった気もする「なぜか今日は」(http://cookiescene.jp/2011/04/cdsuniversal-sigma.php)、アルバムの『I’m Just A Dog』以降、特に、冷や冷やするような危うさとドライヴ感と、彼岸的な希いが直截的な表現とともに、彼のあのザラッとした声で届けられるようになっている。「ROKA」では5分半ほど、真夜中、少し巷間から離れた場所の都会、郊外のアウトサイダーたちへ向けられた8ビートのシンプルなロックンロール。現実的かつ幻惑的に響くフレーズが選ばれていた。

道草食うのが好きさ たぶんあんたにゃわからない
ダンデライオンの味が かなり苦いってこと
(「ROKA」)

いつの間にか道草を食っている間に視界に入った、蒲公英(ダンデライオン)を食んだときの苦味、既存規定社会の<外側>から咆哮を伝える。彼はバンドの変遷とともに、軽やかなロックンロールを求めていっている、という向きも見受け、「ROKA」もシャープな流線形を描くドライヴ感を持った内容だった。チバユウスケの濁声、スタンダードな8ビート、しなやかなクハラカズユキのドラム、ギターのフジイケンジのシンプルなフレーズ、ヒライハルキのベースが重なり合い、先へとただ進むアレンジメント。ライヴに足を運べば、オーディエンス・サイドは、「R.O.K.A」を熱唱することも出来るシンガロング・ナンバーでもある。そして、“それ(ROKA)”しか信じられるのが無い世界の宿命での祀り。

悲しみのはしっこは いつも 忘れられて放っておかれる
いつの間にか何事も無かったような空気だ
自由の真ん中はいつも 見えないまま分からない
すべて粉々になって まばゆい光 放った
(「ROKA」)

昨年の12月にリリースされたバラッド 「LEMON」でも印象的な箇所に「光」というフレーズが出てくる。

さよならブルーズ
けど忘れないよ
愛してる 今でもまだ
お前が生まれて
よかった 光を
その時 見た
(「LEMON」)


並層/累積状に、深まるブルーズ。「さよなら最終兵器」でも、「ダークブルーの静かな決断」と綴られていた。さらには、“絶望”、“愛”、“世界”といった大きな言葉が衒いなく挟まれつつも、イメージの断片がそれらの周縁を啄むことで、意味の灯がともる。

***

過去、「暴かれた世界」では「パーティは終わりにしたんだ」と歌っていた彼は、「くそったれの世界」では「とんでもない歌が鳴り響く予感がする」と鐘の前で歌う。パーティーを続けることと、それだけでは終わらない、彼のこれまでの感性やイメージのモティーフの残像が今一度、バラバラにされる。

「サンタクロースが死んだ朝に」(「シャロン」)

「クリスマスはさ どことなく 血の匂いがするから」

「ジェニー どこにいる」(「ジェニー」)/「海が見たいね アンドロイドがハツカネズミに話しかけてた」(「さよなら最終兵器」)

「俺のマーメイドを 返してくれよ」

「暴かれた世界は オレンジのハートを抱きしめながらゆく とぐろを巻く闇」(「暴かれた世界」)/「お前のそのくそったれの世界 俺はどうしようもなく愛しい」―これまではひとつの象徴性を帯びる儀式的な何かや当然の正論はナイフでぶった切って、そこから架空の物語を始めるように、路上にピストルを置いて、ビートニク文学の色彩に微睡んだり、色んな名前の女の子(そうじゃないものも含めて)を探したり、失ったり、二人だけで閉じたり、多数の眩惑と現実の間をトリッピ―に往来してきた。

ここでは具体的に「世界」は通り一遍の大きい「世界」ではなく、ブルーズとカオスに塗れている“「おまえ」の中の「世界」”に向けて、歌い、それでも、「世界中に叫べよ I LOVE YOU」という喚起を促す。「おまえ」の(くそったれの、どうしようもない)「内面世界」を具体的な外の世界へと接因する。

そして、鐘は揺れ、いつかに旅に出る交わした約束はしたような、していないようなまま、〈漂流〉する。