my private best books in economics 10 pt.1 2014

今年の経済書、私的10選ほど。今年と言いましても、以前に出ていまして邦訳されたものも相変わらずありますが、基本的に貨幣論、労働論の再定義やグローバリゼーション、キャピタリズムに対して新しい視角をもたらすものに魅かれました。

10,『貨幣という謎』(西部忠:著、NHK出版)

9,『21世紀の貨幣論』(フェリックス・マーティン:著、東洋経済新報社

21世紀の貨幣論

21世紀の貨幣論

貨幣には大きく、モノとしての価値が内在化しています「貨幣商品説」と、政府、共同体の規定の中で意味が発現します「貨幣法制説」といいましたものが唱えられてきましたが、価値の代替性でいえば、「貨幣」とは昨今の仮想通貨など含めまして、皆が寧ろ、汎的に想定され得ます領域内での暗黙の取決めを越えてきている要素を考えないといけない局面にあると思います。

自国、他国通貨価値の不信からビット・コイン、P2Pへ巡りいっている人たちの流れは確実に出てきていますし、NATION(中心部)に集約し、流通量を管理し、市場を、という既存モデルはより過渡性を増している中で、どこまで「貨幣」というあらかじめ抽象性を持つものが再考されてゆくのか、より大きい意味を持ってくると思います。ただでさえ、モノの価値としての、規定内で交換可能な何かとして貨幣の内実が変容してきますだけに。

8,『〈働く〉はこれから』(猪木武徳:編、岩波書店

〈働く〉は、これから――成熟社会の労働を考える

〈働く〉は、これから――成熟社会の労働を考える

日本に限らない話になってきましたものの、少子高齢化が進み、移民人口が増え、社会そのものが成熟していこうとする中で、「働き方」そのものへの疑義が呈示されるようになるのは道理で、日本で例えば、法定労働時間たる1日8時間、週40時間を“最低限”クリアーして最低限の生活が出来ているか、最低限の生き甲斐を得ているのかといいますと、集態的な生活意識(調査)だけではほとんど追尾できません。何秒かで、何千万単位、億を動かす機関投資家たちが回す世界金融市場に翻弄される瀬とは何なのか、トリクルダウン効果とは何なのか、といった巷間のニュースから、身近な、ベアでも実質的に生活は楽になっていないような気がするのはなぜなのか、この企業でこの働き方で先があるのか、多層的な中での個々それぞれの働き方が変わってくるのは必然だと思われます。

消費者実感に基づいた景気回復を、という大文字がどことなくそれこそ生活実感から乖離しながら、働く行為性への梃入れがよりなされていくとなりますと、自身にとっての勤労投下でき得る対象はより多様化してゆく分だけ、“こういった働き方であるべき”、みたいなステロタイプな考えは漂白される気がします。労働に依存しないと、社会から疎外されしまう、そんなオブセッションは倒錯的といえ、本当は社会内で生きるから、労働するわけで、その捻じれの中で、“暮らしを営む“本意を求めることもいるのかもしれません。

7,『The Fix―依存症ビジネス』(デイミアン・トンプソン著、ダイヤモンド社

依存症ビジネス

依存症ビジネス

アルコールやギャンブル依存症となりますと、響きが悪いものの、悪しきにつけ何かに依存することで、並列して他のフィールドを“視なくて済める”、それゆえに保てる心身バランス、生活均衡とはある程度、あります。この書では、色んな題材をベースに依存症とそこに関連しますビジネス・モデルを平易に描いていきますし、今更というような箇所も多いものの、前述の”労働への依存”は”ワーカホリック”という言葉に置換しますと、労働によって何かしらフィードバックを得ている訳で、一概に何に依存するのが是か非かではなく、社会規則を破るのはご法度としましても、健康的に依存してゆく中で生まれる経済とは何を幸せにしてゆくのか、何を犠牲にしてゆくのか、また、共犯言語で先走ってゆく結果、壊れるのは何なのか、改めて目の前の自身の耽溺するものに付随します幾つかの条件性を可視化してみるのもいいかもしれません。

要らないものに、要らないお金、時間を払っていることが多いなんてアフォリズムを越えて、逆説的に個々に要るものに、必要な時間を投資していないかも、という気付きもあるかもしれず。

6,『ミクロ経済学の力』(神取道宏、日本評論社

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

大学の一部では実学志向が強まり、看護学部、薬学部などの新設も目立ちますし、大学が職業訓練予備校化しているという向きは別にしましても、難渋な試験を受け、高額な学費を払って数年の「学」を「修める」のならば、例えば、文学部や社会学部へ向かうより、公的資格を確保して、その後のライフ・キャリアで実益が生まれるものを、という背景には将来を見越しました雇用不安よりも、明確な現状の見取り図を手に入れておきたいという今の焦燥があるような気もします。

何でも学修していくほどに、本質は別のところにあり、短絡的にこれが答えで解決はこうであるというのは“ない”ということがわかってゆきます。例えば、今では当たり前になりました法律を用いたTVプログラムも「法」という規範の下に、バラバラの言語体系を持っている人たちの齟齬を埋め立てる、そんなところもありますが、「法」が万能なのか、など言い出しますと、言を俟たないでしょう。そういう意味ではこの書は経済学の教科書的な内容ですが、何となく新聞やニュースの経済面を見ていてもピンとこない人たちに届くような気がします。

例えば、英語に問わず、異言語を学ぼうとした際に初級者用は沢山ありますが、そこをクリアーして、丁度、中間くらいの指南書がない経験をした人は居ると思います。その次が、いきなり上級編か、基礎をもう一度やり直しましょう、みたいなものばかりで。経済学も入門書を読んでいますと、最初は“読み物”としましても面白いものの、途中から数式、関数、ややこしい専門用語が出てきて頓挫してしまう―それはある意味で、止むを得ない事象でもありますが、多少はこういった書籍を参照に自身の中で経済学的な思考を固めますと、これまで曖昧にしていたものが関係、力学論としてわかるところもあると思います。