Crazy Crazy / 明日 / 放たれるように

星野源の新曲が既にあちこちで流れている。

一曲は、ラジオ局で既に馴染みだった「桜の森」、そして、初の両A面たる「Crazy Crazy」は叮嚀までにシックな作りになっていて、過去から取材で“クレイジーキャッツ“の名を挙げていたような、オマージュのようなスウィングするポップ・チューンになっている。それでも、「ギャグ」でのホンキートンク調のものとは違う、元来が療養中のバラッド形式から”変わった“というほのかに暗がりが落ちていて、小気味良いリズムの中で、彼は《おはよう 始めよう 一秒前の世界は死んだ》と始める。W杯サッカーを控える前に、こういうことを言うのもなんだが、ファレルが一時期のアウト・オブ・デイトからすると完全に「HAPPY」でオンになって、コールドプレイが新譜で涅槃的な寒々しさとハリー・ポッター的なファンタジー

―要は”ファンタジー“の執拗なまでの再定義がいるこの、2014年の極東の島国で”ファンタジーを茶化す”という二重行為は寧ろ、現実の痛切さを個々の心身に刻ませる―

行ったの比すると、興味深い。今は、特にUSではオバマケア、ロシア問題含め、ニューソウル期の”不穏”が燻りを立てている。

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「音楽を聴いている時間より、もっと大事な時間があるんですよ。」といろんな方々から言われるこの数年は新聞の一面の見出しに滅入り、発言しては数多の悪罵に叩きのめされ、しかし、改善さえ視えない世界的余白に項垂れていた人も居ると思う。知己の精神科医が「こんなに未来が見えない時代はない。」と食事しながら、ふと呟いた瀬ゆえに、自身も「五月病」の名にかまけて、すこしだけストーンドした。ヒポコンデリア、胆汁、セロトニンの問題じゃなく、自身にとっては手に余る案件群が許容量を越えた、それだけで認知、リズム、規則性などでじわじわとエネルギーは戻ってくる。それでなくても、シリア、クリミア、ブラジル、韓国、中国、日本そのものはどうなのか、顳かみが軋む。

読んでくれた方もいるみたいで、音楽雑誌の『MUSIC MAGAZINE』の星野源特集に僭越ながら、4ページほどの短いテクストを寄稿させて戴いた。反響も有り難く、というか、このブログや過去記事の再構成、リミックス、もう一度のアンダンテ、そういうようなものなので、来週に出るシングルとともに、また噛み締めて戴ければと勝手に想っている。「Crazy Crazy/桜の森」を経て、星野源は再び、訴求性を増してゆくだろう。真剣に馬鹿らしいことを“する”にはこれくらいの覚悟が必要なのだということと、肩の力が抜けたようで病室に降りたムードを背負うには、やはり“彼方”が似合う。

同じく、少し前になるが、スガシカオが全面的にメジャー復帰した。無論、配信リリース、SNSを利用し、ライヴも活動していた。「LIFE」に関しては以前、触りだけ書いたが、「アストライド」には、彼のこの数年の軋みが「弧」から「個」へ周回してゆく過程が見える。想定した「ヒットチャート」を“駆け抜ける”ことから“黄金の月”を夢想をしたときから、長い歳月と苦難のキャリアを経て、彼は「夜空ノムコウ」、「Progress」でもなく、「明日」的な何かにリーチしようとしている。

まず、今日の続きが明日とは限らない。何故ならば、存在の発現と世界は拮抗しているはずで、突然の「存在しない何か=死的な何か」は他者がクリアランスできるものばかりではなく、もっと世界側からの歩みよりで「私」を奪う。だからこそ、「存在すること」は其の儘に「明日への近接線」をなぞる。昨日でも今日でもなく。今日も生きていこう、という際の”今日”は亡骸になっているに近い。

『ねぇそれ この前 渋谷のゲームセンターで取ったやつでしょう?』
本当に欲しいものは そう簡単に手に入ったりはしない

(「アストライド」)

日本・東京・渋谷・更にその一角のゲームセンターで手に入れたマスコットキャラクターに溢れているエマージェンシー・ライン。それ以上入ると危ない、その前で辞めておいた方がいい―そのラインが厳密になってきている。だから、何度でも自分の“再定義”をしないとどうにもならなくなってします。それは、活動かデモかストライキか、先ごろ行ったタイで“暴力はときに正義になりえるが、政治は変わらない”と言われたことを思い出す。窶れた希望的な何かで閉じられたホテルで幾人かの家族と“色んな未来の話”をした。


「急がなくてもいいんだよ。まだ時間はあるから。」

自身にとってはハンナ・アレントはよくわからない。
しかし、「生の事実」に対してずっとはいい加減になっていて、あるいはそこに埋没した耽落のままにあったのは確かで、だから「生の存在」を感じるには、死や否定や放下や負といった回路をいったん媒介にしたほうが、感応しやすくなって、「現存在」という概念を想うようになった。

放たれるように。

あなたのからたちの荊がこの梅雨の時節にすぐにでもほぐれますように。
すぐに夏が来て、華やかになると希ってやまない。

Crazy Crazy