ルルルルズ『色即是空』によせて

ぬかるみの世界へ ようこそ
ここから始まる
(「ぬかるみの世界」)

2013年に、結成したてのルルルルズのライヴを観た際に、インプロヴィゼーションの妙、音楽がふと、沈黙するときの美しさによって、よりバンドとしての訴求性が出てくるかもしれない、という気がした。

このたび、リリースされたファースト・ミニ・アルバム『色即是空』は、サウンド面では昨今の隆盛する新世代のシティ・ポップの潮流の中にあるといえる。透き通った空気とアンニュイなモミのボーカリゼーションと、刹那的なリリックが有機的に絡み合い、そして、そこに、ヴァイオリニストの許斐美希、ピアニストの奥野大樹が居るのも大きい。ティン・パン・アレー、センチメンタル・シティ・ロマンスなど数えきれないほどの過去のリファレンスと、何より感じてしまう、荒井由実の持つ、歌謡性も特徴的で、モードとしてのスタイリッシュさと、蠱惑性、また、どことない、虚無、厭世感が構成要素の一因子として研ぎ澄まされている。

***

振り返れば、限定のファーストEPに入っていた3曲「All Things Must Pass」、「夜を泳ぐ」、「点と線」も入っており、その時点では筆者はこういったことを書いていた。

“ルルルルズにおいては6人の個性(注:なお、当時のドラマーだった酒井一眞から、今はサポート・ドラマーとして森信行に変わっている)の強さとまだまだ秘めているポテンシャルを引き出し合うところもあるだけに、「融和」ではなく、「異化」を目指す試索が見えるということかもしれない(中略)この録音物はあくまで録音のときの呼吸の重なり合いが活かされ、ライヴやセッションでの音響などによる「不確定性」から、残響、湿度、温度、場所、ニュアンスなどで変容をするのを確かめるためのスケッチ集という側面もあるともいえる。”

【参考】ルルルルズ「点と線」(Engawa Record)
http://cookiescene.jp/2013/03/engawa-record.php


では、スケッチ集から、作品集への架橋は為されたのか、という文脈にはまだ、迂回が要る。

ルルルルズは一回性、偶然の要素をこの7曲という単位に潜ませている節も感応できるからで、それは過去にシュトックハウゼンが言っていた、「音を構造化するには、無・矛盾的な関係の下に音の配置の構想のための意味付け」に対しての意識喚起もさせられる。そこには、「偶然」と、「ゲシュタルト概念」への導線が要る。その導線沿いに、“精緻に作り込まれた音楽”のゲシュタルトは崩壊の寸前に架空の現実を追認する可能性がある。昨今のシティ・ポップが、峻厳なほどに柔和さを帯び、有り得ない「都市の、(ための)音楽」であるということはそういった形質があるのだと思う。ささやかな夢を、音楽の中の都市に視るには、残酷な瀬でもあるのかもしれない。

***

この『色即是空』では、最終曲の「点と線」を除き、4分台にコンパクトに纏められている。モナ・レコードの店長であり、ギター・キーボードを担うメンバーの一人でもある行達也が以前に組んでいたバンド、ユメオチを彷彿とさせる、牧歌性と哀愁を忍ばせた「Hello It’s Me」、スティーリー・ダンキリンジに系するスムースさとリズムの跳ね方が印象深い「街はたそがれ」、エレキ・ギターが全面に押し出された軽快なロック「まわるまわる」、バブルガム・ポップ「ぬかるみの世界」といい、曲名から想像できる多くの余地と比してサウンド・スタイルはあえてなのか、別位相をなぞる。その構造化の過程が曲それぞれのバランスを異化せしめてもいて、先に触れた「迂回」という意味文脈で、「スケッチ集」から「作品集」ではなく、プロセスそのものが「作品化」している、そんな感慨も得た。

ルルルルズというバンドが確実に今作ではより”記名化”されているがゆえに、音像にハーモニー・ワークから各メンバーの個性も必然と滲み出ている。

集約/構成/編集の美学も十二分に感じられるが、思わぬ展開になるアレンジメントや下記のようなフレーズがさらっと入ってくるところにこそ、彼らの面白さも可視できる。聴き手を選ばない拓け方が備わりながらも、確然と聴き手の想像力を試す作品だという気がする。

静かに やり過ごしてしまおう
あとになって わかることもある

(「Hello It’s Me」)

色即是空

色即是空