BATHROOM SKETCHES『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』によせて

数え切れない歴史、先達への敬虔に溢れたバンドである。

バンド名のBathroom Sketchesにはパステルズからフリッパーズ・ギターなどのインスパイア、そして、ボーカル・ギター・シンセを負う青野氏は音楽ライターとして、自身のバンドに関してもそのインスピレーションとルーツを誰よりも饒舌に語る。余談になるが、筆者は、マイ・ブラッディ・バレンタインを観たあとのアート・スクールの木下氏をフジロックの早朝、越後湯沢駅で観たことがあるが、その不安定な佇まいと近似して、青野氏の語彙には痛みとノイズ、そして、無数の自身が影響を受けてきたサウンドのリファレンスが隠さず表象されている。

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グランジ、シアトル、フィード・バック・ノイズの中で揉まれる感情。そこに、現メンバーのギター、キーボード担当の森實氏、ドラムの松永氏、紅一点、ベースとボーカルを担う但馬女史のアンサンブルが若さゆえの粗さとある種の成熟のもとでのケミストリー。

この荒々しさと咆哮を、よくある”今の若い子たちのストラグル”と称するには、急速に閉塞化、内向き化する時代に化膿したといえる自暴自棄を投げかけているともいえるような、そんな感覚の誤差は受けざるを得ない。しかし、青野自身のセルフ・ライナーでは、ヤスパースから愛媛の故郷、アイスランド旅行などへ横断的に言及されながらも、この作品『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』から伝わってくるのは、どんな場所にも息をしにくくも、知的好奇心は尽きないユースの”少しの”前向きなアティチュードと、ぼんやりとした諦観である。

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例えば、冒頭曲にキャッチーな「マイスリースター」という曲があるが、そもそも、マイスリーとは軽い睡眠導入剤で、ピンク色の包装に星印が入ったもので、効果はきつくないものの、多義的意味を含む。

なぜ、彼らは、そこに星を観たのか、というのは日本内の文脈で伝わり難いと思うが、特に、あの震災以降、安眠志望者がオブセッシヴに増えている。「安眠」とはでは何なのかというと、安心と同義であるという気がする。安心ならば、明日に備えて寝ようとなる。ただ、不安が先走れば、眠れなくなる。そんな誰もがほんのちょっと内在化している“不眠”を抱え、「マイスリースター」が華やかに拓く。その後もギターロック、シューゲイズ・サウンドポスト・パンクなどひそかに幾つもの音楽要因とステイトメントを忍ばせ、気怠く、加速してゆく。その「加速」の果てに、未来的な何かを掴もうという気は感じ得ない。

それでも、彼らは未来を少しでも信じようと往く。彼らが未来的な何かの周縁を巡りだしたとき、きっと見つめる星の意味も変わってくるだろう。

【BATHROOM SKETCHES HP】
http://bathroomsketches.jimdo.com/

(…Across the)Yellow Town, Pink St.

(…Across the)Yellow Town, Pink St.