【REVIEW】0.8秒と衝撃。『【電子音楽の守護神】』

オマージュに対する、オマージュは確かなオリジナリティに近接する。昨年のEP「バーティカルJ.M.ヤーヤード」(http://cookiescene.jp/2012/05/08jmepact-wise-evol.php )内の「NO WAVE≒斜陽’」のMV(http://www.youtube.com/watch?v=wotG6OIfArY)におけるJ.M.嬢の仮面姿がジャケットに全面に押し出されたこのサード・アルバム『【電子音楽の守護神】』はより音響工作の意匠が細部まで行き渡り、0.8秒と衝撃。そのものが自身の更新を行なうものになっている。これまで通りのパンキッシュかつ性急で生々しいトラックが揃っているが、電子音楽の葉脈沿いに、今回はスーサイド、ナイン・インチ・ネイルズ辺りの沈み込むようにただ鮮明に景色を飛ばしてゆく情景と、トライバルなリズム・センスにはローカル・ネイティヴス含め、昨今の世界的なインディー・シーンにおける原点祭祀性が含まれているような気配もある。

ツイッターで塔山氏自身が言及していたように、例えば、二曲目の「シエロ・ドライヴ・10050」とはナイン・インチ・ネイルズの『ザ・ダウンワード・スパイラル』が製作されたシャロン・ステート殺人事件があった曰くつきの家がある番地名であり、そこからも何らかのインスパイアを得たのだろう音像群には無数の傷跡が引っ掻かれたようにシンセ、エフェクト、獰猛なギターノイズが行き交い、ツイン・ボーカリゼーションのしなやかな強さもより顕現している。なお、歌詞も直截性を増し、《あと、何日、生きれる?》、《すきまに落ちてく光でも、前だけ見ている世界ほら ほどけてこぼれたミルクなら 時に暴れだしたい。》、《僕は今も 君をいつも泣かすヤツを、壊し続けた》など、更には衒いのない夢、希望、愛、未来、ダンスというフレーズも行き交い、あくまで、フラットな日常を生きる息苦しさをおぼえているだろう声なきマイノリティのための瞬間を昇華させるためのエントロピーが保たれている。

この変化/深化をして、これまでの彼らに求めていた何かと違うとしたならば、やや情報過多ともいえるアレンジメントになるかもしれないが、おそらくスタジオ・ワーク作品としての彼らの明確な呈示であるとも察せられ、明らかにライヴでは再構築されるがゆえに、旧曲と混ざり合ったときにどういった化学反応が起こるのか、今から楽しみにもなる。

目立った各曲に触れてゆくと、冒頭の「DJ×DJ」は語彙数が絞られ、塔山氏の咆哮が残響するダンス・トラックであり、細かく刻まれるリズム、エレクトロニクス、じわじわと高揚に向けて重ねられる展開といい、フロアーでのDJスピンでも映えるような新機軸ともいえる。個人的に、やはり、ここ、全体に通底するムードにはノイエ・ドイチェ・ヴェレ的な空気感が可視出来る。ノイエ・ドイチェ・ヴェレとは、70年代末から80年代前半にある種、大文字に肥大したロックに対する旧・西ドイツで起きたそういったデッドエンドな風潮へ向けたアンダーグラウンド・ムーヴメントを仮称するが、その内実は精緻にはバラバラだった、三拍子パンクからデア・プラン、アンドレーアス・ドーラウなどの歪みを持った電子音楽DAF、ボディー・ミュージックまで即応刺激と実験性を是とする共通言語はあったかもしれない。とはいえども、0.8秒と衝撃。の場合はいささかペダンチックなそれよりはもっと分かりやすいポップネスがあるのも特徴だろう。

3曲目の「レイモンドKハッセル」。タイトルは、このアルバムの主人公であり、塔山氏自身の投射が為されている。スペーシーなシンセから転調までが鮮やかな軌跡を描き、日常に漂う倦怠の枠を外すライオット、ダンスへの導路を敷く。前半は4分から3分の曲が並んでいるのもあり、一気に雪崩れこむような構成になっており、それがラプチャーの「ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァーズ」を思わせるポスト・パンク的かつキャッチーな7曲目の「Strawberry Synthesizer」で新たに視界が拓ける地平が浮かぶのも意趣深い。そして、最終曲のロックンロールが元来、持つスイング感が心地良い「Freedom FOREVER」で、こう最後に歌う。

《長生きなんて したくもないけど、 一緒に生きた、僕らの歴史は 誰も消せやしない。》

 今の生はすぐに歴史になり、過去になる。今はもう、そう思った途端、今ではなくなる。

ただ、今、その瞬間分だけ仮にも同じ時代を生きているのならば、懸命にストラグルすべきなのだと思う。彼らの意思はこれまで以上にきっと多くの人たちの心に残響する気がする。(松浦 達)

【電子音楽の守護神】 ※初回盤

【電子音楽の守護神】 ※初回盤

筆者注)2月6日リリース予定

0.8秒と衝撃。HP】
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