【REVIEW】Jóhann Jóhannsson『Copenhagen Dreams』

現代音楽におけるモダン・クラシカルの魅力性が大きかったのは古典と前衛のアウフヘーヴェンを一回性のアートに閉じ込めようとした試みのみならず、ソニマージュ、son(音)にimage(映像)が連動するかのような、技法とその俯瞰的な認知にあったのではないかとも思う。

ハウシュカのプリペアド・ピアノ沿いのチャンス・オペレーション的な情景にはフルクサスの影を忍ばせながらも、デュッセルドルフの歴史や街並が浮かび、ヘリオスからゴールドムンド名義を跨ぐキース・ケニフにはチルウェイヴやアンビエント・ミュージック辺りの音とは精緻には違い、上品にかつオーガニックに音像そのものを眠らせるような組立て方がされていた。また、ダスティン・オハロランのピアノも「音を見る」ような風趣があり、オーラブル・アルナルズしかり、どこかの国の架空のサウンドトラックともいえるサウンドタペストリーを感じることも多かった。

その中でも、モダン・クラシカルのオリジネイターとも言われ、アイスランドを代表するヨハン・ヨハンソンがこの『Copenhagen Dreams』で研ぎ澄ませた丹念に織り込まれた音のレイヤー、反射する音響、そこから連想される幾つものイメージ、彼岸のような美しさを含めて時間の流れからまるで無縁にも思える高度な抽象性は素晴らしい。

02年のソロ・デビュー作『Englabörn』で、既にクラシック音楽ミニマル・ミュージックIDMの要素を持ち込んだ音風景は音色の「体系」を再考しようとする導路でもあり、案の定、その作品から撒かれた種は既存のエレクトロニカ・シーンや現代音楽家たちの意識を刺激したように思えたが、如何せん早すぎた向きもあったかもしれない。そこから、時代の変遷とともに、彼に似た音は皮肉にも匿名的に溢れることになったが、やはり、この作品においてヨハン自身の筆致が定められている。

元来、今作はコペンハーゲンについてのドキュメンタリー映画『Drømme i København (Dreams in Copenhagen)』のサウンドトラックとして作られたものだが、モダン・クラシカルが内包していた、幽玄にしてエレガントな詩情を表象しているのもあり、オリジナル作として捉えることができる。エレクトロニクス、チェレスタ、キーボード、クラリネット、ストリングス・カルテットの箱庭的な編成で作られたのもあるが、人肌の温もりを感じさせる淡さと穏やかなアンビエンスが充溢している。

ノスタルジックに意図的にひび割れる音、どこか遠くで響いているかのようなチェレスタ、ミニマルなタッチに絞られたピアノまで装飾過多ではない引き算の美学が通底し、ともに、連篇小説みたく切り替わる曲を捲る中でコペンハーゲンの街を、音を通して想起させ、ソニマージュ的な触覚的な体験が持ち上がる。

オリジネイターによって更新されたモダン・クラシカルのひとつの到達点ともいえる作品だと思う。

Copenhagen Dreams

Copenhagen Dreams