of thermodynamics

くるりというバンドに「ロックンロール」という曲があります。この曲に関してはどの編成のときにもほぼ、ライヴで演奏され、そのライヴごとで体感するべきと思えるもので、しかも、何らかの追悼のように鳴らされるときもあります。2004年の2月にリリースされた、いわゆる、『アンテナ』期のリード・シングル。ジャケットは和装した岸田繁、カジュアルな佇まいの佐藤征史大村達身、西洋的な正装をしたクリストファー・マグワイアが並び、初回盤には「東京」と「ワンダーフォーゲル」のライヴ映像をおさめたDVDが付いていました。2曲目はある時期までほぼ封印されていたものの、ライヴでよく演奏されるようになった「さよなら春の日」というアイリッシュ・トラッド的な穏やかな曲が入っています。

“ロックンロール”という大文字がタイトルに付されながら、ロックンロールらしくない含みがある進行で、シンプルでありながらも、8ビートを基底としたドライヴ感よりもどっしりとしたグルーヴがうねり、コーラス・ワークが映えるもの。バンド組織体として、変容を遂げ、青い季節を後景にする刻印が押され、沿うように《たったひとかけらの勇気があれば ほんとうのやさしさがあれば あなたを思う本当の心があれば 僕はすべてを失えるんだ》というフレーズが印象深く残ります。

くるり詩集』における岸田繁の解説では、ロックバンドをやっている自分としては全て(自分も、周りも)転がしていきたい、そのためには場のビートをグルーヴに変えなければならず、早急なテンポではない、と綴ります。さらに、全てを肯定できるロックンロールのグルーヴ、失うことが恐い、諸行無常と相反する言葉が並列化しながら、最後に「失うことに対して、まだ迷う。」と締めます。

瞬間に、空間を響かせる音、蒸発、気化したあとの風景、その場でしか味わえないダイナミクス、喪失。それからどんな状態下でも、彼らはほぼ「ロックンロール」をセットリストに入れ、本編の最後であったり、フェスであったり、演奏してきました。自分が観てきたものでは、ラストのアウトロで混沌とした様相になり、一心不乱にギターを掻き毟る岸田さんの姿がしばしば残っています。敬愛するTHE WHOピート・タウンゼントのように風車みたくウィンドミルをしてみたり、兎に角、その瞬間限り、鬼気さえも帯びる曲で、「東京」の咆哮、「ワンダーフォーゲル」の切なさ、「ばらの花」の叙情とは違い、痛みが切り刻まれます。

何らかの肯定行為とは強烈な否定衝動から始まるケースもあると思います。

ここにはなにもない、だから、自分でなにかを求めよう、しかし、その「なにか」はまた代替されてしまうだろう、そういった諦念のループを回すためにはグルーヴが必要になってくるのならば、グルーヴとはストレート・エッジなものに限らず、景色を後にしてゆくぐらいの速度が居るのかもしれません。のぞみではなく、こだま。こだまが返ってきたときにようやく気付ける肯定。東京―大阪の全線開業されるリニアは2045年と予定されています。単純計算で今年から33年後。最速で67分で東京―大阪を結ぶ試算下、その「速度」は誰もが求めてきた速度なのか、文明の進化過程なのか、私には分からず、進むビートはせめてゆっくり刻み、足早になりたくはないという気持ちに沿います。