004 『組織の経済学』(ポール・ミルグロム : 著、ジョン・ロバーツ : 著 NTT出版 1997年)

組織の経済学

組織の経済学


スタンフォード大学経済学部教授のポール・ミルグロム(Paul Milgrom)が1992年に出版した著書『Economics,Organization and Management(組織の経済学)』はいまだに大学やビジネス・スクールのみならず、企業のオーナー、ビジネスマンにまで読まれる。

分野にもよるが、経済理論は直接、ビジネスと縁がない。というよりも、実ビジネスの速度、非合理性と経済理論の適合点があるという方が奇妙でもあるからで、しかし、彼のオークション理論が新しかったのは、政府が直接介入するのではなく、マーケット・デザインの考え方であり、昨今、80年代半ば以降に発展を続ける「組織の経済学」では、人間の持つ限定合理性や不完全な情報を念頭に、組織体系、機能、改善方策をモデル化しようとしている。市場は経済学の中では、“見えざる手がはたらく既存性“としてみなされていた。マーケット・デザインに包含されるオークション理論、マッチング理論などでは市場のルールの設計を推進する。

『組織の経済学』を考えるときには、「費用」への理解が要る。経済学での費用とは実際のお金のコストをいわず、概念的なコストも含む。特に、機会費用という概念は重要になる。機会費用とは、何かを選んだとして失われてしまう、また、他の選択肢から得られたはずだろう最大の利得を指す。例えば、新規開拓をするよりも既存の付き合いの長い先方であるほど、時間や労力を節制でき、利潤も安定確保できるということだ。新規開拓プロジェクトを打ち出すためには、基盤としてその組織の安定事業がスムースにいっていないといけない。よく企画会議で、グローバル事業を、新部門を、という話になるが、その前に、母体となる基礎たる部門収益、安定取引先との収支経緯を見ながら、慎重にことを進める。学術機関では、申請を出してしまい、ほぼ通るだろう予定の新設学部の下地を精査すると、費用と効果のトレードオフが見られてしまうのも少なくない。その新設学部のためには不可視的なコスト=会議や打ち合わせが膨大に投資されてきたのだろうと思う。

但し、組織についてはアダム・スミスが企業行動・組織・市場の「境界」に意識を向けていたという前例を踏まえずとも、組織内部の境界も検討されてきた中で、お金や職位以外にインセンティヴ理論が用いられるようになってきた、ということは、「長い会議は無駄だ。」、「余計な職位、部門は意味がない。」だという紋切型の正論は必ずしもそうではない、合理的だという副脈もある。

組織内では不完全情報がどうしても生まれる。管理層はだから、会議でその情報を均す。そこに、非・管理層も時おり入れたりするのは、行動経済学の観点から把握しておくことで、情報や判断の誤導を未然に防げる可能性も出てくるからでもある。