003 『老人漂流社会』(NHKスペシャル取材班:著、主婦と生活社 2013年)

老人漂流社会

老人漂流社会

2013年1月のNHKスペシャル『終の住処はどこに 老人漂流社会』を底本にした内容で、無縁化する社会の中で、老後の在り方は高齢者本人以外に、その家族、社会を取り巻くひずみをも露呈させながら、追い詰められてゆく老人の心境まで迫る。

ある時まで“何事もなく”過ごしていた老齢者がほんの少しのことを通じて、施設、病院を転々としてゆく。適切な医療や介護のためにはかなりのお金とHRが要る。

また、親縁の関係で、例えば、認知症の病院で順番を待つとしても、問い合わせをすると、毎月にこれくらいかかりますが、と真っ先に言われる。まず、介護者自身の日々生活してゆく経済状況と、更に負わなければ介護のための経済的与件と心理的逼迫―しかも、介護は老々介護や抱え込む形式のものも多く、介護者/被介護者が共倒れになるケースも枚挙にいとまがない。

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総務省統計局が2013年9月に各種統計から日本の高齢者動向をまとめたレポートを発表した。その内容によれば日本の65歳以上(高齢者)の人口は2013年9月15日時点で3,186万人となり、総人口比は25.0%となっている。

統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)−「敬老の日」にちなんで−
http://www.stat.go.jp/data/topics/topi720.htm

一概にデータだけでは何も浮かんでこない。元気な80歳もいれば、寝たきりの65歳もいる。それでも、少なからず、「世の中にご迷惑を掛けたくない」という倫理観念を内包している人も居り、高齢者層への何重かの色眼鏡がまだ掛かっているところもある。木を見て森を見ず、はどんな要件にも付き纏う。

併せて、いつかの高齢者たる層は、自分はこれだけ年金を払っていても、将来ターン・バックはされない。いざ、病院に行っても、高齢者の方ばかりで医療費はどうなるのだろう。日常でよぎる尽きない疑念がイメージと本質の差異を暈してしまいもする。

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一人暮らしの高齢者だと、自己防衛と自己責任として選択肢は二つしかない。親類縁者に頼れない場合だと、在宅での医療、介護サービスを受けること。そのサービスも細かく、経済的負担が積もる。他方、グループ・ホーム、特養などの施設へ入るとなっても、“待ち”の状態やいざ入ることができても、いくつもの尺度と、経済的富裕/貧困の如何により、期間は見えない。

2015年度の介護保険を巡る改正案では、要支援者向けのサービスが市町村の地域支援事業へと段階的移行に変わる。すでに市町村でのサービスの差が言われる中での、段階的移行については不安の声も出ている。保険料の低所得者向けの軽減措置や呼応して、所得のある人の介護自己負担は増やすことで合わせるのか、しかし、施行されてしまえば、そうなってしまう。

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有料老人ホーム、サービス付き高齢向け住宅、シニア向けマンション(賃貸・分譲)の広告が華やかに喧伝されている。所用で見学に行ったシニア向けマンションは本当に立派で申し分ない設備だったが、分譲で6,000万円ほどした。

歳をいかない人はなく、歳を重ねることはみっともないことではないという一般的な感覚にすこし倒錯が生まれている。この書で出てくる人たちもささやかにそれまで生活しており、配偶者の急死や自身の病気で急変してゆく。そこで、社会保障制度の現状を思い知る。

老齢者を漂流させるのはやむを得ないことなのか、長生きすることそのものがどうなのか、長生きする人を支えることとは、など考えると、シビアな課題群が表前してくる。