002『統計学が最強の学問である』(西内 啓:著、ダイヤモンド社 2013年)

統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である

Googleのチーフ・エコノミスト、ハル・ヴァリオン(Hal Ronald Varian)はアカデミズムを飛び出し、国際市場、実ビジネスの荒波に飛び込んだ一人で、発言力も大きいが、彼は2009年にニューヨーク・タイムズ紙からの取材で「次の10年でセクシーな仕事は、統計学者だろう。」と述べていた。

ビッグデータの活用に関しての視座も含んでの言だろうが、むろん、統計分析は相関関係を解すことはできる。しかし、因果関係の判別への測定は確定的ではなく、揺れる。

この書がイロニカルに“統計学を最強”としながら、まったくハルの言うところのセクシーさを弁えていないのは残念でもある。

なお、補足として、統計学は、観察データに基づいた記述統計学と、実験に基づく小サンプルで母集団のパラメータを推測する推測統計学に二分される。かの、カール・ピアソンとロナルド・フィッシャーの何度もの論争は、有名にして結果的には統計学応用数学での一部門の拡大を担ったものの、難渋な論争の瀬の中で、すこし「統計学」という学問に発展の遅さを持ち込んでしまったともいえる。既成の学説への新説の発表は大体、批難が絶えない。ピアソンの保守性、フィッシャーの精密標本論との対比を思うまでもなく、既成学説と新説の間の再検討を巡る時間と学派同士のやりとり、学問体系にハイアラーキーは付きものだとしても、介在する惹句に「最強」も「最弱」もない。

ただ、この書を入口にして、古典から最新の統計学、隣接分野に意識が向けば、という責務はすこしは果たしたのかもしれない、とは思う。